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最高裁判所第二小法廷 昭和52年(あ)418号 決定

本店所在地

栃木県黒磯市東栄二丁目六番一〇号

株式会社池田建設

右代表者代表取締役

池田幸雄

右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和五二年二月九日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人木野政治の上告趣意は、憲法三九条違反をいうかのような点もあるが、その実質は、すべて量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

昭和五二年四月八日

(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊 裁判官 本林譲 裁判官 栗本一夫)

○昭和五二年(あ)第四一八号

上告趣意書

被告人 株式会社 池田建設

右代表者代表取締役 池田幸雄

右の者に対する法人税法違反被告事件について上告趣意は左記のとおりである。

昭和五二年四月九日

弁護人 木野政治

最高裁判所第二小法廷 御中

原判決は、刑の量定が著しく不当であつて著しく正義に反するから破棄を免れないものと信ずる。その理由は、次のとおりである。

第一審判決の罪となるべき事実。

被告会社株式会社池田建設は、黒磯市東栄二丁目六番一〇号に本店を設け、土木建築工事の請負を目的とする法人、被告人池田幸雄は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統轄しているものであるが、被告人池田において、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の外注費、賃金などを計上し、仮名の定期預金を設定蓄積するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、

第一 昭和四五年一〇月一日から昭和四六年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額は一、九六七万八、七七七円で、これに対する法人税額は六八六万五、九〇〇円であつたのに、昭和四六年一一月三〇日大田原市紫塚二、六八四番地の四〇所在大田原税務署において、同署長に対し所得金額が三六二万一、〇六〇円でこれに対する法人税額は九六万四、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて右不正の行為により被告会社の右事業年度の正規の法人税額との差額五九〇万一、〇〇〇円を法定の納期限までに納付せず、もつて同額の法人税をほ脱し

第二 昭和四六年一〇月一日から昭和四七年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額は五、五二四万三、二七〇円で、これに対する法人税額は一、九四二万五〇〇円であるのに、昭和四七年一一月三〇日前記大田原税務署において、同署長に対し、所得金額が二、七〇四万二、五七七円でこれに対する法人税額は九〇三万五、六〇〇円である旨の虚偽確定申告書を提出し、もつて右不正の行為により被告会社の右事業年度の正規の法人税額との差額一、〇三八万四、九〇〇円を法定の納期限までに納付せず、もつて同額の法人税をほ脱し

第三 昭和四七年一〇月一日から昭和四八年九月三〇日までの事業年度における被告会社の所得金額は一億四、二六二万七、九五三円で、これに対する法人税額は五、一二五万五〇〇円であるのに、昭和四八年一一月三〇日前記大田原税務署において、同署長に対し、所得金額が七、九七二万三、八〇九円でこれに対する法人税額は二、八一三万七、三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて右不正の行為により被告会社の右事業年度の正規の法人税額との差額二、三一一万二〇〇円を法定の納期限までに納付せず、もつて同額の法人税をほ脱したものである。

右事実に対し、次の刑の言渡があつた。

被告会社株式会社池田建設を罰金八六〇万円に、被告人池田幸雄を懲役六月に各処する。

被告人池田幸雄に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人池田幸雄の負担とする。

被告会社は、量刑不当であるとして控訴申立をなしたが、原審は、「被告会社の代表取締役としてその事業全般を統轄していた池田幸雄において、右会社の法人税を免れようと企て、昭和四五年一〇月一日から昭和四八年九月三〇日までの三事業年度にわたり、被告会社の総所得金額のうち一億七一六万二、五五四円を申告除外して同会社の法人税合計三九三九万九、一〇〇円という多額の法人税をほ脱した事案であり、被告会社の収入秘匿の方法も右池田幸雄が自ら積極的に架空の人件費、下請業者を設定したり、あるいは下請代金の水増し、建築土木工事材料(U字溝などのコンクリート二次製品や砂利など)購入代金の水増しをするなどして得た金員を架空名義の定期預金にするという巧妙な方法によるものであることを考えると、被告会社の刑事責任は軽くない」として控訴を棄却する旨の判決を言渡した。

しかし、原審の判決は、次の事由により量刑重きに失し、著しく正義に反するものと思料する。

第一 ほ脱額が多額であるという点

現在の企業法人の取引金額および貨幣価値等からみれば、予想されるほ脱額は、億単位に達するものがあると思われる。法人税法第一五九条の罰金の多額は、五百万円であるから本件のほ脱額三件併合罪にて合計三九三九万九、一〇〇円に対し、罰金八六〇万円は重きに失する。

第二 犯行の手段方法が悪質であるという点。

ほ脱罪は、故意に偽わりその他不正の行為によつて税を免れる行為である。会社は、当然商業帳簿を備え、企業会計に従つて決算書を作成し、これに基いて納税申告をするのであるから申告に際して故意に金額を偽わる余地なく、本件のように、架空の人件費、下請業者を設定するとか代金の水増等によつて収入の秘匿を図るのが一般であつて法人税法違反事件として特に悪質というものではない。

第三 重加算税について

被告会社は、本件発覚後各年度の法人税、事業税、市民税およびその延滞金と共に総額六四八三万六、〇七〇円を修正申告をなして完納した。これは当然のことであるが、更に国税通則法第六八条により次の重加算税を課せられた。

法人税については、三事業年度分合計一四〇五万二、五〇〇円、法人事業税については、三四一万九、七〇〇円にして合計一七四七万二、二〇〇円である。被告会社は、右課税について一時に納付できないので税務署および県税事務所に分割納付の申請をなし、これが認められて昭和五一年三月に完納した。(弁第四号ないし同第七号、証人大和田和夫の証言)

重加算税は、納税者が課税要件事実を隠ぺい又は仮装して納税義務を免れた場合に課する旨を規定し、ほ脱罪は、偽りその他不正の行為により租税を免れる故意犯であり、両者の構成要件は、実質上同一内容である。重加算税を課する理由は、不正行為による脱税が修正申告により納税する税金以上に課さなければ脱税防止の効果をあげることができないからである。脱税によつて得た利益より以上の負担を課することによつて心理的強制を加え、一般予防的効果をねらつたものである。

刑罰は、脱税者の不正行為の反社会性ないし反道徳性を制裁として科すものである。かかる反社会的行為は、自然人の行為が評価されるべきであるから行為者が処罰されるのは当然である。しかるに両罰規定によつて同一所為に対し行為者の外に法人に罰金を科するのは、行為者の犠性において法人に不正な利益を獲得させないためであり、罰金を科することは刑罰を科することであるから形式的には憲法第三九条の二重処罰にあたらないが、実質的には同一目的を達する政策的立法である。

よつて、重加算税を完納した被告会社に対し更に罰金八六〇万円を科することは、実質的に二重処罰といわなければならない。資本金一〇〇〇万円の被告会社に対し、代表者個人に懲役刑を科し、更に右金額の罰金刑を科すことは、刑罰の公平を害し正義に反すると思料する。

よつて、上告を申立てた次第である。

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